
2016年8月15日
月に一度出張する水戸の職場。すぐ近くに千波湖があるので、仕事が終わってから、のんびり湖の周りを1周歩いた。夕陽が美しい。沢山の市民も、歩いたり走ったり、ポケモン探しと、楽しげに過ごしていた。だが、夕陽を見ながら私は、幕末の悲惨な水戸の歴史を思い、苦しい思いで歩いた。
茨城に住み、かれこれ四半世紀経つが、実家の宮城と比べて郷土愛が少なかったのだと思う。茨城の歴史など、水戸黄門以外はほとんど知らなかった。直木賞作品、朝井まかて著「恋歌」(講談社2013/講談社文庫2015)を読んだのも、水戸の歴史が描かれているとはつゆ知らずの契機だった。明治の女流歌人であり、小説家樋口一葉の歌の師である中島歌子を描いた作品である。
幕末、尊王攘夷論に沸き立つ水戸藩士が、桜田門外の変で井伊直弼を倒したことは知っていた。その後、天狗党の乱という内紛により、藩内では血なまぐさい戦が繰り広げられたことを、この小説で初めて知った。天狗党水戸藩士に嫁いだ中島歌子の獄中の日々が凄絶に描かれていく。高潔で親しい武士の妻子らが、次々と斬首される。獄中は糞尿と血の臭い・・・。夫や大切な奉公人の生死さえわからない状況で、それでも生きていかなければならない主人公。暗く悲惨な状況ながらも、誇りと恋心を捨てずに生き抜く、哀しくも強靱な姿が描かれていた。
そんな主人公が、まだ反乱や投獄前の穏やかなひとときを、城下の千波湖周辺で過ごす。ゆったり豊かな川辺で、徳川慶喜生母である貞芳院とともに釣りをするシーンだ。江戸から明治に激動の変化を遂げる時、水戸藩は内紛で混乱していくが、その凄惨な歴史の中で、豊かな水を湛える千波湖はおだやかな景色として描かれる。
今は、噴水が煌めき、多くの鳥たちがのんびりと集う、平和そのものの水戸、千波湖。湖にはアオコの被害という現代的な悩みもあるようだった。開国し列強と交流し、最新科学や文化の発展もしなければならないという時流にあって、尊皇攘夷の理念は置いてけぼりのまま、内紛に崩れ去っていった水戸藩。あまりにも多くの命が無意味に奪われた歴史が、無性に切なく苦しく感じられた。

水戸
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水戸、千波湖周辺のお散歩②
世界で2番目 千波湖公園朝井まかて
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