自傷・解離から解放へ 「ニキ・ド・サンファル展」

ニキ展ポスター

2015年10月22日
 国立新美術館で行われている、ニキ・ド・サンファル展を鑑賞した。→ニキ展 強烈な印象のアート達。様々な思いを巡らせることが出来た。
 初めてニキの作品に出会ったのは、スイスのチューリッヒ駅だった。駅の構内に、巨大な青い太っちょ女性がバルーンアートのように浮いていた。なんだこれは~?変なの。最初はそう思った。
2011チューリッヒ駅ナナ     写真向かって左上の像 2011年撮影
 名前だけで、貴族家系の優雅なフランス女性がポップアートを展開しているのかと、勝手に思っていたのだが、大きな間違いだったことを、テレビ『日曜美術館』で知った。ニキは幼い頃、父親の性的虐待を受けていたというのだ。のち精神を病み、アートがニキを徐々に解放した。
 実際にニキの人生に添いながら作品をみると、若いときの自画像やモンスター・魔女を描いた作品達、そして有名な射撃アートは、時に痛々しく暴力的であり、胸が締め付けられるような気がした。身体のあちらこちらが切り裂かれて、その中に乳児やどくろが見える「赤い魔女」は、特にインパクトがあった。
 性的虐待は、悲痛なまでの苦しみをもって子どもの人生を蝕むといわれている。自分が汚れてしまったという思いにとらわれて、自傷行為を繰り返したり、愛憎と恐怖・逃げたいのに逃げられないなど相反する思いから解離性障害を引き起こしたりする。また、原因のない痛み、それも多くは性器や下腹部、口腔など性的虐待の部位に痛みが出現するという(西澤哲 子ども虐待 講談社現代新書 2010)。ニキの初期作品からは、束縛された女性の空虚さや苦しみ、そして虐待による悲痛さを感じた。作品からは強い痛みや、自傷行為のようなものが伝わったし、空虚な、無力感のようなものも感じた。
 ところが、時代を経て、代表作ナナのシリーズでは、開放的で自由奔放な女性像へと変化する。これが同じ人の作品とは思えないほどだった。アートや恋人との時間、様々な人生のエピソードが、ニキを変化させたのだろうか。人はどんなに苦悩を抱えていても、心の解放をはかり、エネルギーに満ちあふれることが出来るのだと感じた。これまでニキのナナ像は、単なる太っちょ元気なお姉さんというイメージしかなかった。だが、ニキの人生とともにその作品の変化を間近にして、女性として、一人の人間として、心の解放を表現したナナ像が、なんと魅力的なのかと感じた。
 晩年は、特定の宗教にとらわれることなく、しかしスピリチュアルな世界を表現したようだ。深い苦悩を乗り越えて、静かで澄んだ精神状態で過ごせたのだろうか。魅力的な女性の、魅力的な作品達。初期の作品は、決して和やかに鑑賞出来るものではなかったが、後の解放をより深く感じるに必要なものだった。企画した女性キュレーターに、心から賛辞を贈りたい。

ニキ ブッダ



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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:bordeauxlyon
のびやかな筑波山の麓に在住。ガーデニングとワイン、旅が生きがい、そして趣味は美術館巡りと短歌です。
美しい花や自然、アートに満たされた日々で、心地よい豊かな日々を過ごしたいと思っています。
花と画家のなかでも大好きなクレマチス、マティスを冠して、日々の暮らしについて語ります。

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