鱗文の哀しき女性 能 葵上

2017年1月2日
 能、葵上を鑑賞した。先に野村万作・萬斎による狂言を堪能したあとの葵上である。アルファ派たっぷりの謡いで何度か睡魔に襲われたが、源氏物語にある女性の怨念、愛を得られぬ悲しみの舞いに、胸を打たれた。
 能、葵上は、源氏の正妻、葵上が懐妊し伏せっている時に、源氏の愛人、先の東宮妃である六条御息所が恨み、呪い、憎むというあらすじに基づく。細かく言えば、そこに至るまで様々なエピソードがあり、痴話喧嘩という単純なものではない。それでも能舞台で描かれるのは、女性の哀しいまでの怨念だ。
 舞台に葵上はいない。華やかな装束が床に横たわり、それが葵上を示す。六条御息所が身につけていた装束は、三角形が連なる鱗文という文様だ。白とシルバーの三角が連なるシンプルな文様。すっきりと美しい柄だが、蛇の鱗に例えられ、能装束では女性の執念を象徴する鬼女の装束なのだという。
 六条御息所を、ただの鬼女だと思う女性はいないだろう。源氏という浮ついた、女性の尊厳を傷つける男性に、運命を揺さぶられた哀しい女性。蛇は恐ろしい生き物だが、古来から神とも祀られ、鱗文は厄除けにも用いられている。もとは気品と知性にあふれる女性だった御息所。舞台の最後では、御息所は成仏し、魂の救済がもたらされる。狂おしいまでの嫉妬、屈辱、激昂という人間らしい慟哭は、決して忌むべきものではないものだと考えさせられる。
 

葵上

テーマ : 伝統芸能
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:bordeauxlyon
のびやかな筑波山の麓に在住。ガーデニングとワイン、旅が生きがい、そして趣味は美術館巡りと短歌です。
美しい花や自然、アートに満たされた日々で、心地よい豊かな日々を過ごしたいと思っています。
花と画家のなかでも大好きなクレマチス、マティスを冠して、日々の暮らしについて語ります。

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