フランスで「フクシマ」を語る

2014年6月6日
 昨年のバカンス旅行はフランスのスペインにほど近いビアリッツという街だった。このあたりをバスク地方といい、スペインの周辺地域も含めて独自の文化を持っている。美食の宝庫であり、特に生ハム、チョコレートなどは有名である。それ以外にも海も山も近いこの地方は、新鮮な魚貝や肉、野菜や乳製品も美味この上ない。おおかたのフランス地方都市を旅したことのある私たち夫婦は、少し変わったところを昨年の旅行先に選んだ。美味たっぷりの良い旅だった。海は南仏と比べると暗緑色がかった静かな色である。
 しかし最も印象的だったのは、土地の人との語りである。そうはいっても私のフランス語能力だから、さほど深い話ができるわけではない。それでも偶然出会ったビアリッツの人と、私にとっては故郷近くて何かとゆかりのあるフクシマの話をすることがあった。仙台よりも実家から近く、友人・知人も福島県内に多数いる。
 ひと組目はバイヨンヌのレストランで偶然隣合った老夫婦である。バイヨンヌは生ハムで有名なビアリッツの隣街だ。狭いながらも感じの良いレストランで、日本人に興味津々の笑顔を向ける老夫婦と隣あった。日本人?どこから来たの?我々は来年(つまり2014年)の夏に日本旅行を計画している、広島、大阪、東京、そしてフクシマを旅する予定なんだ、と教えてくれた。広島そしてフクシマに来るからには原子力に関心があるのだろう。そこでエネルギー問題について語るほど私のフランス語力はなかった。
 二人目はビアリッツの街から空港に向かうタクシーの女性運転手。フランス人らしく前をろくに見ない運転で、しょっちゅう後部座席を見詰めては、「日本人でしょ?今フクシマはどうなの?」と聞いてきた。どうなのか、とは何をどう答えれば良いのか難しい問いだった。折しも汚染水を海に放水するというニュースが流れていた頃だった。原発の状況を語るだけの知識には欠けていたし、更にフランス語で言う能力も欠けていた。私たちはフクシマの隣県に住んでいるけど、まあまあ大丈夫、そんな稚い答えしかできなかった。しかし、同世代かと思われたフランス人女性に、たとえば郡山に住む友人が子ども達の放射能データを学校から送られて悩んでいる姿や、いわき・北茨城の魚がなかなか食べられない状況にあることなど、自分にとって身近な話題を提供するくらいならできたのではないか、と後で悔やんだ。
 フランスではエネルギーの75%を原子力発電に頼っている(2011年のデータ:http://webronza.asahi.com/global/2011041600001.html)。だから原子力発電の問題に強い関心を抱いている。オランド大統領は原子力発電の比率を50%にまでさげると言って選挙に勝ったが、あまり具体策は進んでいないとも聞く(http://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_jigyo/france/detail/1231555_4779.html)。地震が少ない国とはいえ、原子力発電所が多数あるフランスでは、フクシマに強い関心を向け続けるだろう。
 帰国して、もっとフランス語がうまくなりたいとモチベーションが上がった。帰って最初のフランス語レッスンで、フランス人Rに宣言したものだ。「社会問題について語れるようになる!」と。「おお、がんばって~。Bon courage!」と薄ら笑いで励まされた。案の定、いまだこの願いは叶えられていない。相も変わらず、美味談義で終わってしまう毎週のフランス語レッスンだ。そろそろバイヨンヌで出会った夫妻もフクシマを訪ねる頃に近づいた。住所を交換しておくべきだったと後悔している。そうしたら必ず私がフクシマを案内するのに・・・。ビアリッツとおなじ、美しい空と海があるフクシマである。まだまだたくさんの哀しみを含んではいるが、豊かな食材の宝庫であることに変わりはない。


ビアリッツの海

テーマ : フランスの生活
ジャンル : 海外情報

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Re: 他人事…?

月子さま

コメントありがとうございました。
おっしゃるようなご意見をいただくのではないかと思いながら記したブログでした。
「フクシマ」にするか「福島」にするか、自分でもかなり悩んで書きました。
ご気分を害してしまったら申し訳ありません。
けれども、あえてカタカナ表記にすることの意味は、
決して「他人事」ということではなく、
むしろ今、福島の問題は世界の人にとって身近で重要な関心事なので、
漢字よりカタカナ表記の方が良いのではないかと考えた次第です。
身近である問題をできるだけ遠い国の人とも共有していきたい、という思いから
カタカナ表記に決めました。
様々なとらえ方、哀しい思いで受け止められる方もいるのだなと、今回のご意見で痛感しました。
ご意見をありがとうございました。




プロフィール

bordeauxlyon

Author:bordeauxlyon
のびやかな筑波山の麓に在住。ガーデニングとワイン、旅が生きがい、そして趣味は美術館巡りと短歌です。
美しい花や自然、アートに満たされた日々で、心地よい豊かな日々を過ごしたいと思っています。
花と画家のなかでも大好きなクレマチス、マティスを冠して、日々の暮らしについて語ります。

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